「減価償却費」についてどれだけ理解していますか?
とくに不動産所得がある方は、経費として計上できる減価償却費の有無によって納税金額が大きく変わってきます。
しかし、減価償却費は計算方法が複数あり、算出に法律がかかわってくることもあるため、「複雑で分かりにくい」と感じている方も多いはずです。
この記事では減価償却費について、計算の仕方や仕訳方法などを詳しく解説します。
中小企業や個人事業主の方は、最後まで読んでみてください。
もくじ
1.不動産投資における減価償却とは?

みなさんは「資産運用」と「投資」の正しい意味をご存じでしょうか。実は資産運用と投資は、言葉の定義が違います。まずは、資産運用と投資の定義について、きちんと確認しておきましょう。
減価償却費とは?
減価償却費とは、固定資産を購入する際に発生した費用を、経年劣化に応じた形で分割して加算する費用です。
建物や機材・設備などの固定資産は、時間の経過とともに劣化していきます。年月の経過によって価値が減少する資産費用を、会計処理上で分割払いとして計上する費用が減価償却費です。分割期間は資産の耐用年数に応じて法律で定められているため、実際の支払いが一括であっても減価償却費は変わりません。
減価償却の対象になるもの、ならないもの
不動産投資において、減価償却の対象となるのは建物やそれに付随する設備(例:エアコン、給排水設備)です。これらは時間とともに劣化し、価値が減少すると考えられているためです。
一方で、土地は減価償却の対象にはなりません。土地は時間が経過しても価値が減少しないという考え方に基づいているためです。そのため、物件購入価格のうち、建物価格がいくらで、土地価格がいくらなのかという内訳が、減価償却費を計算する上で重要になります。
2 .減価償却の仕組み

減価償却が節税に繋がる最大の理由は、会計上の赤字を作り出し、給与所得など他の所得と合算(損益通算)することで、課税対象となる所得全体を圧縮できる点にあります。
支出を伴わない経費を計上できる
減価償却費の最大の特徴は、実際のお金の支出を伴わない経費であるという点です。通常の経費、例えば管理費や修繕費は、お金を支払うことで経費として計上されます。
しかし、減価償却費は、物件購入時に支払った代金の一部を、会計ルールに従ってその年の経費として計上するものです。そのため、手元のキャッシュフローは悪化させることなく、帳簿上の経費だけを増やすことができます。
不動産所得の赤字と給与所得を相殺する「損益通算」
会社員の方が不動産投資を行う場合、家賃収入から経費(管理費、ローン金利、減価償却費など)を差し引いたものが「不動産所得」となります。この不動産所得が、減価償却費を計上したことによって赤字になった場合、その赤字分を給与所得と合算することができます。これを損益通算と呼びます。
例えば、給与所得が1,000万円の人が、不動産投資で1年間の家賃収入100万円に対し、経費が400万円(うち減価償却費300万円)かかったとします。この場合、不動産所得は300万円の赤字です。この赤字を給与所得と損益通算すると、その年の課税対象所得は1,000万円 – 300万円 = 700万円に圧縮されます。
結果として、所得税や住民税が減額され、確定申告を行うことで払い過ぎた税金が還付される、これが減価償却による節税の基本的な仕組みです。
3.減価償却費の計算方法

減価償却費を計算する際には、法律で定められた耐用年数や、2つの計算方法などの知識が必要です。確定申告で正しく計上するために、減価償却費の基本的な計算方法から会計上の仕訳方法まで詳しく解説します。
減価償却費の基本的な計算方法
減価償却費の基本的な計算方法は「取得価額÷耐用年数」です。減価償却は取得した資産を使い始めた事業供用日からおこないます。
たとえば、耐用年数47年のマンションを4,700万円で購入した場合の減価償却費は次のようになります。
1年間の減価償却費 4,700万円 ÷ 47年 = 100万円/年
1ヶ月の減価償却費 100万円 ÷ 12ヶ月 = 8万3,333円/月
とくに、固定資産を購入した年の確定申告では、事業供用日から会計年度中の残日数を確認しておきましょう。
耐用年数の確認方法
耐用年数は国税庁や各市税局のホームページで確認できます。資産を取得する際には、耐用年数をしっかりと確認しておきましょう。
減価償却費の計算に使用する耐用年数は、法律によって細かく定められています。事業者が耐用年数を勝手に決めることはできません。また、中古マンションの場合は築年数を差し引いて、残りの耐用年数を確認する必要があります。
定額法と定率法の違い
減価償却費の計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。
定額法は先ほどご紹介した、取得価額を耐用年数で割って計算する方法です。耐用年数に応じて一定の割合で減価償却をします。
一方、定率法は事業供用日に近いほど減価償却費が多くなる計算方法です。資産は経年劣化とともに価値が落ちていくため、資産が新しいほど減価償却費は高くなります。ただし、「償却保証額」や「改訂償却率」といった専門知識も必要になる点に注意が必要です。
不動産経営での減価償却費計算方法
不動産経営での減価償却費は、定額法で求めます。
「取得価額×減価償却率(1÷耐用年数)÷12」の計算式で求められる値が月間の減価償却費です。減価償却費は月単位で計算するため、1日でも事業供用日がある場合は1ヶ月分を計上できます。
たとえば、耐用年数47年、鉄筋コンクリート造マンションの場合の減価償却率は「1÷47=0.021」です。
取得価額が4,700万円だとすると、1ヶ月の減価償却費は「4,700万円×0.021÷12=8万3,333円」となります。
減価償却費の仕訳方法
会計処理上の仕訳方法は「直接法」と「間接法」の2種類があります。
直接法は、固定資産から減価償却費を差し引く方法です。
たとえば、50万円の減価償却費を仕分ける場合は、次のように記載します。
「借方科目」減価償却費 500,000円
「貸方科目」固定資産 500,000円
もう1つの仕訳方法となる間接法では、固定資産ではなく減価償却累計額に加算します。
同じく50万円の減価償却費を仕分ける場合の記載方法は、次のとおりです。
「借方科目」減価償却費 500,000円
「貸方科目」減価償却累計額 500,000円
確定申告の際には、どちらの方法で仕分けても問題ありません。
4.減価償却で節税効果を高めるためのポイント

同じ不動産投資でも、物件の選び方によって減価償却費の大きさ、つまり節税効果は大きく変わります。ここでは節税効果を高めるためのポイントを2つ紹介します。
中古物件を選ぶ
前述の計算方法からもわかるように、中古物件、特に法定耐用年数を超えた物件は減価償却期間を大幅に短縮できます。 期間が短いほど、1年あたりに計上できる減価償却費は大きくなり、短期的に大きな節税効果を得やすくなります。新築物件は耐用年数が長いため、年間の減価償却費は少なくなり、長期にわたって安定した節税効果を目指す形となります。
木造物件を選ぶ
建物の構造の中で、木造は法定耐用年数が22年と最も短く設定されています。耐用年数が短いということは、同じ建物価格であればRC造など他の構造に比べて年間の減価償却費を大きく計上できます。そのため、節税を重視する投資家からは、築古の木造物件が注目されることがあります。
5.減価償却費の注意点

減価償却費の計上にはいくつか注意点があります。会計処理で誤った計上をおこなわないためにも、細かい点までしっかりと事前に確認しておきましょう。
減価償却費の注意点を3つご紹介します。不動産投資をおこなう個人事業主にとって有利なポイントもあるので、ぜひチェックしてくださいね。
減価償却できない資産もある
減価償却ができない資産もあります。土地や美術品など、経年劣化によって資産価値が低下しないものです。
土地付きの住宅を購入した際には、住宅部分の費用は耐用年数によって減価償却費として計上できますが、土地の購入費用は減価償却の対象にならない点に注意してください。
中古資産を購入した場合
中古資産を購入した場合は、耐用年数が異なるケースもあるので注意が必要です。中古資産は、耐用年数が短いため減価償却できる期間も短くなります。
また、耐用年数は新品からの経過年数だけではなく、使用頻度によっても変わってきます。
個人事業主や中小企業には特例がある
個人事業主や中小企業が減価償却する際には、少額減価償却資産の特例を受けられます。(※2022年12月執筆当時)個人事業主や中小企業が30万円未満の資産を取得した場合、全額を単年の経費として計上できます。ただし、特例が認められるのは年間300万円までです。
売り上げ規模が大きくない場合は、経費計上による節税効果が高くなります。条件にあっていれば、積極的に特例制度を利用しましょう。
ローン返済額が減価償却費を上回る「デッドクロス」がある
デッドクロスとは、年間のローン元金返済額が減価償却費を上回ってしまう状態を指します。減価償却期間が終わると、経費として計上できる減価償却費はなくなりますが、ローンの返済は続きます。
これにより、会計上は黒字で税金の負担が増えるにもかかわらず、手元のキャッシュフローはローンの返済で圧迫されるという状況に陥る可能性があります。特に短期で償却する戦略をとる場合は、デッドクロスに陥る時期をあらかじめ予測し、対策を考えておく必要があります。
【まとめ】減価償却費を正しく理解すれば不動産投資で損をしない

減価償却費は法律で定められた耐用年数を使用するなど、計算に複雑な面もありますが、事業や不動産投資をおこなううえで重要な会計項目です。正しく理解して計上することで、節税効果も見込めます。
とくに個人でおこなう不動産投資の場合は、経費として計上できる費用を正しく申告し、無駄な税金を支払わないようにすべきです。不動産投資で損をしないためにも、減価償却費について理解を深めておきましょう。
